人権救済申立書

2018(平成30)年11月1日

日本弁護士連合会 人権擁護委員会 御中

〒657-8501 神戸市灘区鶴甲3-11
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
渡部昭男研究室 気付(送達場所)
申    立    人    中等教育及び高等教育の
漸進的無償化立法を求める会

上記代表者代表世話人     重   本   直   利
同     三   輪   定   宣
電 話 078-803-7726
メール akiowtnb@port.kobe-u.ac.jp
(連絡担当者  渡部昭男)
〒100-8959 東京都千代田区霞が関三丁目2番2号
相    手    方     国
上記代表者文部科学大臣   柴   山   昌   彦

第1 申立の趣旨

 被申立人は、立法措置その他のすべての適当な方法により、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)(別紙1抜粋)13条2項(b)及び(c)(中等教育及び高等教育への権利及び漸進的無償化実施義務)の完全な実現を漸進的に達成するため、国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、行動をとる義務があることを確認し、その迅速な実現のために中等教育及び高等教育の漸進的無償化を促進する法案(仮称)の立法を含め、その他適切な措置をとるよう、被申立人に勧告されたい。

第2 申立の理由

1 はじめに

 申立人は、貴連合会人権擁護大会において2018年10月5日採択された「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」(甲1の1)を心から歓迎しています。

 とりわけ、決議が「日本では、家庭の所得と学歴との相関性が高く、『生まれた家庭』の経済力によって受けられる教育が左右されており、高等教育における学費の高騰等により進学できない若者も少なくない。」と指摘した上で、「1 普遍主義の社会保障・人間らしい労働と公正な分配」において、「⑴若者が置かれた現状を改善するものとして、全ての若者が、『生まれた家庭』の経済力や性別など自ら選択できない条件に左右されることなく、試行錯誤をしながら、学び、就労し、生活基盤を構築できる公平な条件を整備するため、①就学前教育・保育から高等教育までの全ての教育の無償化・・・をすべきである。」と述べたことに、注目しています。

 貴連合会は、これまでにも、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもの生きる権利、成長し発達する権利の実現を求める決議」(2010年10月8日人権擁護大会決議、甲1の2の1)、「子どもの尊厳を尊重し、学習権を保障するため、教育統制と競争主義的な教育の見直しを求める決議」(2012年10月5日人権擁護大会決議、甲1の2の2)のほか、複数の意見書・会長声明(甲1の3)を発表されています。

 しかしながら、具体的な施策なしにはこの決議の実現は容易ではなく、他方で中等教育及び高等教育の経済的負担による教育への権利の侵害は、後記2、3のとおり現在もやむことなく、また後記4のとおりさらに深刻化するおそれがあります。重要なことは、具体的な方法論、とりわけ立法政策を検討する段階に至ったと考えます。

そこで、申立人は、人権救済申立に及んだ次第です。

2 当事者

(1) 申立人

 申立人は、社会権規約13条2項(b)及び(c)の実現を目指し、研究(甲2)を進めてきた有志研究者らが中心となって創設した団体(権利能力なき社団)である。

(2) 被害者

 被害者は、中等教育及び高等教育段階(日本においては基本的に短期大学を含む大学、専門学校に相当する。)で修学する意思及び能力があるにも関わらず、主に経済的な負担のために進学を断念し、中途退学を余儀なくされ、修学のための費用を得るための労働等により修学のための時間を奪われるなど充実した学生生活を送ることができず、又は修学のための負債の返済に困難を抱える者である。

(3) 加害者

加害者は、被申立人である。

3 人権侵害の内容

(1) 高等教育における経済的負担(甲3)

 日本の高等教育段階においては、その費用の多くが私費負担、特に授業料等の学生納付金(家計負担)により賄われており、その割合は51%であって、OECD加盟国中チリに次ぐ高さである。

 当然、授業料等の学生納付金は高騰し、国公立大はアメリカ、チリに次ぐ3位、私立大はアメリカ、イングランド、オーストラリアに次ぐ4位となっているが、日本ではこれに加え、経済的支援制度がほぼ貸与制となっており、返還不要の給付制奨学金制度(scholarships/grants)がほとんど存在しないという問題がある。

(2) 経済的負担による高等教育の機会の不均等

 このような高等教育段階における重い経済的負担のために、家庭の経済状況によって高等教育進学の機会が左右されていることはもはや日本においては常識となっている(甲4)。さらには、経済的理由により大学を中途退学する者も多い(甲5)。

 また、低所得層の学生の方が、長時間のアルバイトに従事せざるを得ない実態が存在するが、アルバイトは学習時間、学業成績に負の影響を及ぼすなど、充実した学生生活を送ることを困難にしている(甲6)。
さらに、日本における経済的支援制度の中心が日本学生支援機構の行う貸与制奨学金制度となっているため、その返還が困難となり、遂には破産する例も少なくない(後記5⑴)。

 これらの事実は、既に貴会の決議(甲1の1・5頁)において「大学をはじめとする高等教育機関の学費は高騰する一方、世帯の収入は大きく減少した。貧困が拡大する中、経済的理由から進学を諦める者も少なくない。大学生の5割以上が奨学金を借り、多くの学生は、学生生活を犠牲にさせるようなアルバイト(いわゆるブラックバイト)をするなどして、学費や生活費を稼がざるを得ない状況にある」として確認されているところである。

⑶ 中等教育における経済的負担と教育への権利の侵害

ア 前期中等教育(主に中学校)においては、国公立学校で授業料、教科書代は無償とされるものの、給食費や制服代、学用品代等その他の負担が重く、経済的に困難を抱える世帯の生活をより困難な状況に追い込んでいる。

イ 後期中等教育(主に高校)においては、国公立学校の授業料不徴収が制度化されたものの、その後所得制限が導入されるなど後退したばかりか、無償となったのは授業料のみのため、入学料、教科書代や制服代、学用品代等の負担は解消されていない。
また、私立学校では多くの場合授業料も負担しなければならない。私立高校にも一定の生徒が入学するよう、公立高校の定員が少なく設定されていることを踏まえると、家庭の経済状況によって後期中等教育の進学の機会に差が生じていると言わざるを得ない。

4 人権侵害である理由

(1) 中等教育及び高等教育の機会均等は人権として保障されるべきこと

ア 社会権規約

 (ア) 被申立人は、社会権規約を1979年に批准したが、その際、「同規約第13条2(b)及び(c)の規定の適用に当たり、これらの規定にいう『特に、無償教育の漸進的な導入により』に拘束されない権利を留保」していたところ、2012年9月11日、同留保を撤回した(甲7)。

 これにより、被申立人は同(b)「種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。」、同(c)「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」に拘束されることとなった。

(イ) 同(b)及び(c)の解釈にあたっては、社会権規約2条1項、2項が、

「1 この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。 2 この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」

としていることを忘れてはならない。

 2条2項に「財産」が列挙されていること、及び13条2項(b)及び(c)が「特に、無償教育の漸進的な導入により」と明記したことからすれば、経済的状況にかかわらず中等教育及び高等教育の機会均等が確保されるべきことは、社会権規約13条2項(b)及び(c)が特に重視している点である。

 そして、2条1項も踏まえれば、社会権規約は被申立人が「利用可能な手段を最大限に用いることにより」「行動をとることを約束する。」すなわち、中等教育及び高等教育に関しては無償教育の漸進的導入を最大限速やかに進めるという行動をとることにより、中等教育及び高等教育の機会均等を確保するよう求めているものと言わなければならない。

 このように、社会権規約は、被申立人に対し、中等教育及び高等教育の機会均等を確保するための作為義務を課しているのである。

(ウ) 憲法98条2項は、批准した条約について誠実に遵守する義務があ るとしており、憲法上も、被申立人は留保撤回部分を含め、前記規定を誠実に遵守する義務がある。

(エ) なお、付言すると、前記留保撤回以前においても、1979年の社会権規約批准以降に被申立人が行ってきた高等教育の学費の急進的高騰政策は、社会権規約違反を構成しており、その違法はいまだに是正されていないと考えられる(甲8)。

 この過去の違反が是正されていない以上は、留保撤回以後、被申立人が積極的に高等教育段階の学費を引き上げていないとしても、社会権規約違反の違法状態は解除されていず、留保撤回以後の違法はさらにその上に累積していることになる。

イ 日本国憲法

 かかる現状は、能力に応じてひとしく教育を受ける権利を定めた憲法26条に違反することはもちろんのこと、現代社会で中等教育及び高等教育が果たす重要な役割に鑑みれば、個人の尊厳原理に立脚し幸福追求権について最大の尊重を求めている憲法13条、健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法25条、勤労の権利を保障した憲法27条に反するものといわなければならない。

ウ 子どもの権利条約

 子どもの権利条約28条1項(b)(c)は中等教育及び高等教育の機会が与えられるべきことを定めており、経済的状況によって中等教育及び高等教育の機会が与えられないことは子どもの権利条約が保障する人権の侵害である。

 とりわけ、同(b)は「種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての児童に対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる。」として、「無償教育の導入」を例示している。
また、同条約は18歳未満の者を対象にしているところ、原則として我が国における高等教育への進学は18歳以上であるが、18歳未満である高校在学中に進路選択を迫られ、高等教育で修学する意思及び能力があるにも関わらず、主に経済的な負担のために進学を断念することはあるから、子どもの権利条約が保障する人権の侵害にあたる。

⑵ 被申立人に人権侵害にあたる義務違反があること

ア 作為義務違反

(ア) 前記⑴のとおり、被申立人は、無償教育の漸進的導入を最大限速やかに進め、高等教育の機会均等を確保するという作為義務を負っている。
しかるに被申立人は、いたずらに不作為を継続し、漫然とその責任を放棄してきたのであるから、作為義務違反がある。

(イ) この点について若干付言すると、被申立人の政府内部で何がその義務であるかについて明確に意識されず、その責任の所在が共有されていないところに最大の問題がある。

 すなわち、この義務を実効的に実施するためには、文部科学行政を担う文部科学大臣のみではこれをなしえず、財政措置義務を担う財務大臣が主体的に国の義務を実行することが必須である。また、社会権規約に基づく義務であるから、外務大臣もその義務の一端を担うものである。

 さらに、これらの政府部局を統括する内閣総理大臣及び官房長官も、国の責務の実行について積極的に関与する責任がある。

(ウ) また無償教育の漸進的導入を最大限速やかに進めるためには、無償教育の漸進的導入の行政上の根拠となる立法が必要である。
被申立人は、漸進的無償化のための段階的な政策(ロードマップ)を立案して立法化し、その実施を主導する行政機構を設ける義務があるが、そのような法案の作成に着手さえしていない。

 前記留保撤回からすでに6年余が経過しており。被申立人は、かかる立法を準備し、国会に提案する十分な期間があったにも関わらずこれを怠っており、かかる現状は前記作為義務違反というほかない(甲9)。

イ 不作為義務違反

 被申立人は、同時に、高等教育の機会均等を損なう、高等教育の有償化(学費負担の加重)を行ってはならないという不作為義務も負っている。

 しかるに、後記5のとおり、高等教育の機会均等をさらに損なう重大な懸念のある事態が生じており、このまま実行されるならば前記不作為義務違反というほかない。

5 さらなる人権侵害の懸念

 以上述べたとおり、被申立人は、現在既に人権侵害を行っているところであるが、以下のとおり、さらなる人権侵害が懸念される状況にある。

(1) 「奨学金」という名のローン制度の破たん(甲10)

ア 既に貴会の繰り返しの意見書(甲1の3)において「学びの機会を保障して人生を支援するはずの奨学金が、事実上、学資ローンと化し、その返済が利用者の大きな負担となって、苦しい状況に更に追い打ちをかけ、結婚や出産など人生の大切な選択をも制限する事態を招来している。」(甲1の3の3・2頁)などと確認されているとおり、日本における経済的支援制度の中心を担う日本学生支援機構の貸与制奨学金制度は、もはや抜本的な制度見直しなしには継続し得ない状況となっている。

イ 同制度は、太平洋戦争中に創設された大日本育英会に端を発し、長年、貸与制を基本として我が国における公的奨学金事業を担ってきたものであるが、高等教育修了者の雇用が安定し、一定の収入を得られることを前提に構築されており、現在の高等教育の状況と前提を異にしている。

 すなわち、高等教育の学費負担の高騰、従前学費を負担すべきものと認識されてきた親世代の貧困化により、高等教育段階で奨学金を利用する需要が高まり、利用者が増大したのみならず、1人あたりの借入額が増大した(甲10・スライド9頁)。

 借入額の増大は、返還負担の増大に直結するが、他方で奨学金を返還する高等教育を修了した20~30代の雇用の不安定化、所得の減少が進行し(甲10・スライド11、13頁)、およそ平均的な収入のある男性でも、都市部で家賃を自己負担したり、扶養家族がいたりすると奨学金を返済しながらの家計は赤字となり、それよりも収入の低い男性や、一般に男性よりも収入が低くなりがちな女性の場合は奨学金を返済しながらの家計はより容易に赤字となる(甲10・スライド14~18頁)。

 奨学金の返還は、以前とは比較できないほど、高等教育段階で奨学金を利用した者にとって負担となり、経済的破たんのリスク要因となっている(甲10・スライド6、19頁)。

ウ 現に奨学金を債務に含む自己破産件数は毎年3,000人程度で推移しており(甲10・スライド2頁)、さらに破産するおそれのある「破産予備軍」は20万人近くに上るとの分析もある(甲10・スライド24~29頁)。

 被申立人は、所得連動返還制度を導入したが、当該制度には多くの問題点があり、「経済的困難にある返済者の視点に立った検討が不十分」(甲1の3の3・13頁)であることは、既に貴会も確認するところである。

 また、被申立人は、給付制奨学金制度をようやく導入したが、これも人数・金額ともあまりに不十分であり、かつ既に貸与制奨学金制度の利用を開始してその返還義務を負っている多くの利用者の救済には無関係である。

エ 仮に、高額の学生納付金や学生生活費を奨学金制度で支援することで高等教育の機会均等を確保しようとするならば、相当充実した給付制奨学金制度を設けるとともに、貸与制奨学金制度についてはその時々の所得に応じて無理のない金額を返還することとし、全額の返還が困難な者からは無理に取り立てず柔軟に返還免除をする仕組みとし、制度利用者の負担と不安を軽減する仕組みとすることが必要不可欠である。

 しかるに、現在のわが国の奨学金制度はそのような仕組みになっていない。早急に対処しなければ,「奨学金破産」の増大など過重な奨学金返還の負担が多くの奨学金利用者に影響を及ぼすとともに、このような過重な負担を嫌って奨学金の利用を断念し、ひいては進学・卒業の断念や過度のアルバイトによる学生生活の質の劣化が急激に進行するおそれがある。

(2) 国立大学による学費値上げの動き

ア 国立大学の授業料は、「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令に基づき,国が定める金額を標準(標準額)として、各国立大学法人がそれぞれ金額を設定する仕組みになっている。

 2005年4月以降、文部科学省は授業料の標準額を535,800円として変動させていない。各国立大学法人に対しても、「文部科学省からは『授業料収入で自己収入の大幅な増加を賄うということは、金額の大幅な引上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である』ということをお答えしている。」と、値上げに慎重な対応を要請していた(甲11の1)。

イ しかし、2018年9月13日、東京工業大学は、「2019年4月以降の学士課程入学者、および2019年9月以降の大学院課程(修士課程・専門職学位課程・博士後期課程)入学者の授業料について、学士課程、大学院課程とも、現行の授業料535,800円(年額)を、635,400円(年額)に改定することといたしました」として、全学的な値上げとしては国立大学初となる授業料の大幅引き上げ(99,600円増、増額率118.6%)を行うことを表明した(甲11の2)。

 これに対して、林文部科学大臣は省令が許容する上限額(標準額の120%)以内であることを理由に容認する発言を行った(甲11の3)。

ウ 授業料を比較的低廉に抑えることで大学進学の機会均等を保障することは、国立大学の重要な役割の1つであることは論を俟たない。
今回の授業料値上げの原因は、被申立人が国立大学法人化後一貫して、国立大学の運営費に充てられる運営費交付金を削減し続け、大学の教育・研究等に必要な資金の手当てが十分になされていない点にある。

 被申立人は、値上げに慎重な対応を要請したという一方で、大学運営に必要な資金は毎年削減しているのである。そうであれば各国立大学法人は容認されている授業料等の引き上げによって資金の確保をせざるを得なくなることは明らかである。

エ 東京工業大学の授業料引き上げは、大学進学の機会均等を保障することをその重要な役割の1つとする国立大学として不適切な姿勢であるが、何よりも問題とされるべきは、高等教育の漸進的無償化に反する授業料引き上げを防止せず、むしろ誘導している被申立人の不作為である。

 東京工業大学に続き、同じく国立大学である東京芸術大学が10月26日、省令が許容する上限額まで授業料を引き上げることを表明しており(甲11の4)、かかる被申立人の不作為を早急に是正しなければ、他の国立大学、さらには私立大学にも学費引き上げが波及しかねず、高等教育のさらなる有償化が進むことが懸念される。

(3) 2018年問題

ア 国連社会権規約委員会は、2013年5月17日、社会権規約第16条及び第17条に基づく第3回政府報告に関する最終見解において、「委員会が2008年に採択したガイドライン(E/C.12/2008/2)に沿った形で、次回の定期報告を2018年5月31日までに提出すること」を要請している(「2018年問題」)(甲12・パラグラフ37)。

イ 「2018年問題」とは、2012年9月の日本政府の「無償教育の漸進的導入」条項の留保撤回を契機にこれらの事項を含めた総点検と実行を求めるものであるが、現時点において政府報告は未だ提出されていない。

ウ なお、上記最終見解(甲12・パラグラフ29)は、「委員会は締約国に対して、本規約第13条(b)に沿った形で、漸進的に完全な無償の中等教育を提供するため、早急に公立高校授業料無償制・高等学校等就学支援金制度に入学金及び教科書代を含めるよう勧告する。」としているが、実施されていない。

6 結論

 以上の次第で、中等教育及び高等教育の漸進的無償化を促進する立法など、具体的な行動をとる義務が被申立人にあることを明確に意識するよう被申立人に求める必要があることは明らかである。

 なお、申立人としては、その立法の内容として別紙2のような内容が適切であると考えていることを付言する。

以上

証  拠  方  法
(かっこ内は作成者、作成日)

甲1の1 「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」(日本弁護士連合会、2018年10月5日)
甲1の2の1 「貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもの生きる権利、成長し発達する権利の実現を求める決議」(同、2010年10月8日)
甲1の2の2 「子どもの尊厳を尊重し、学習権を保障するため、教育統制と競争主義的な教育の見直しを求める決議」(同、2012年10月5日
甲1の3の1 「奨学金制度の充実を求める意見書」(同、2013年6月20日)
甲1の3の2 「給付型奨学金制度の早急な導入と拡充、貸与型奨学金における適切な所得連動型返済制度の創設及び返済困難者に対する柔軟な対応を求める意見書」(同、2015年3月19日)
甲1の3の3 「所得連動返還型奨学金制度につき、十分に議論を尽くした上で、真に利用者負担の少ない制度の創設を求める意見書」(同、2016年7月14日)
甲1の3の4 「生活保護世帯の子どもの大学等進学を認めるとともに、子どものいる世帯の生活保護基準を引き下げないよう求める意見書」(同、2017年10月18日)
甲1の3の5 「『所得連動返還型奨学金制度』に対する会長声明」(同、2016年2月26日)
甲2の1の1 「漸進的無償化プログラムのアジェンダ(行動計画):私立大学(学校法人)財務の現状から」日本教育学会第76回大会ラウンドテーブル報告資料(重本直利、2017年8月25日)
甲2の1の2 「大学評価学会通信第14号」(重本直利・細川孝・大学評価学会、2007年7月25日)
甲2の2 『無償教育と国際人権規約:未来をひらく人類史の潮流』(三輪定宣、2018年8月30日)
甲2の3の1 「後期中等・高等教育における『無償教育の漸進的導入』の原理と具体策:(1)研究構想を中心に」『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』第9巻第2号93-102頁(渡部昭男、2016年3月30日)
甲2の3の2 「後期中等・高等教育における『無償教育の漸進的導入』の原理と具体策:(2)2015-16年度の研究成果と課題」『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』第10巻第2号199-209頁(渡部昭男、2017年3月30日)
甲2の3の3 「後期中等・高等教育における『無償教育の漸進的導入』の原理と具体策:(3)2016-17年度の研究成果と課題:漸進的無償化プログラムの提言にむけて」『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』第11巻第2号153-162頁(渡部昭男、2018年3月30日)
甲2の4 「国際人権規約と教育無償化の理念」『教育と医学』第780号5-11頁(渡部昭男、2018年6月1日)
甲3の1 “Education at a Glance 2017”(OECD、2017年9月12日)【抜粋】
甲3の2  “Education at a Glance 2014”(OECD、2017年9月9日)【抜粋】
甲4の1 『日本の高学費をどうするか』(田中昌人、2005年11月25日)
甲4の2 「高校生の進路と親の年収の関連について」(東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センター、2009年7月31日)【抜粋】
甲4の3 中等教育修了者の進路」(西川治、2017年1月16日)
甲5 「経済的理由による学生等の中途退学の状況に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援の在り方に関する調査研究報告書」(東京大学、2016年3月)【抜粋】
甲6 『「平成26年度学生生活調査」結果の概要』(独立行政法人日本学生支援機構学生生活部学生支援企画課学生支援調査室、2016年3月)【抜粋】
甲7 「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」(外務省、2012年9月)
甲8 「高等教育と学費問題:日本による国際人権(社会権)規約13条違反について」『国際人権法政策研究』第2巻第2号(通算第3号)23-37頁(戸塚悦朗、2006年11月20日)
甲9 「社会権規約13条2項(b)(c)に関する留保撤回への道:国際人権法政策研究所が残したレガシーと無償教育実現への展望」『龍谷法学』第50巻第1号73-113頁(戸塚悦朗、2017年9月29日)
甲10 「奨学金破産~『破産予備軍』把握の試み~」(西川治、2018年9月)
甲11の1 「国立大学の授業料について」(文部科学省高等教育局、2016年3月4日)
甲11の2 「2019年度以降入学者(学士課程・大学院課程)の授業料を改定」(国立大学法人東京工業大学、2018年9月13日)
甲11の3 「林芳正文部科学大臣記者会見録(平成30年9月14日)」(文部科学省、2018年9月)
甲11の4 「教育研究環境整備のための授業料改定について」(国立大学法人東京芸術大学、2018年10月26日)
甲12 「(外務省仮訳)第50会期において委員会により採択された日本の第3回定期報告に関する最終見解(2013年4月29日-5月17日)」(経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会、2013年5月17日)

(別紙1)

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約【抜粋】
採択 1966年12月16日 発効 1976年1月3日 訳者 日本政府

https://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/society_convention.html

2018年10月25日閲覧(日弁連国際人権ライブラリーより)

第2条

1 この規約の各締約国は、立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約にお いて認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な 手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上 及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。

2 この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗  教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位 によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する

第13条

1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。

2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。

b. 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能で  あり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。

c. 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入によ り、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとするこ   と。

e. すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。

(別紙2)

1 法律案の名称
(仮)中等教育及び高等教育の漸進的無償化を促進する法案

2 法律案の趣旨
⑴ 社会権規約の主要な規定を国内法化する。
⑵ それを実施する国内制度を創設する。

3 国内法化すべき主要規定
⑴ 社会権規約2条1項(国の作為義務)
⑵ 社会権規約2条2項(差別禁止)
⑶ 社会権規約13条2項(b)(c)(中等教育及び高等教育への権利、漸進的無償化実施義務)

4 実施のための機関の概要
(1) 内閣府に設置
(2) 毎年の施策(ロードマップ)及び調査結果を国会に報告する義務
(3) 中等教育・高等教育漸進的無償化促進会議の設置構成員は、首相、官房長官及び関係大臣とする。
(4) 中等教育・高等教育漸進的無償化促進調査推進委員会の設置構成員は、学識経験者及び関係行政機関職員とする。

以上